犬の変形性関節症に新しい治療の可能性|「痛みを抑える」だけではない研究が進む

犬の変形性関節症に新しい治療の可能性|「痛みを抑える」だけではない研究が進む

犬の変形性関節症に新しい治療の可能性|「痛みを抑える」だけではない研究が進む

犬が年齢を重ねると、散歩の速度が落ちたり、立ち上がるまでに少し時間がかかったり、階段を嫌がるようになったりすることがあります。

その背景にある代表的な病気のひとつが、変形性関節症(Osteoarthritis:OA)です。

変形性関節症は、関節の軟骨だけではなく、その下の骨や滑膜など、関節全体に変化が起こる慢性的な病気です。犬でも非常に一般的で、RVCの過去の大規模調査では、年齢や体重、犬種などが発症リスクと関係していることが報告されています。

現在の治療は、痛みを和らげる、炎症を抑える、体重や運動量を管理する、リハビリを行う、といった方法が中心です。

そんな中、2026年8月25日に学術誌「Bone Research」で、関節症そのものの進行に働きかける可能性を持つ新しい標的についての研究が発表されました。

注目されたのは「CDK8/19」

研究を行ったのは、Royal Veterinary College(RVC)、オックスフォード大学、Middlesex University、Institute of Cancer Researchなどの研究チームです。

チームが注目したのが、CDK8とCDK19という非常によく似たタンパク質です。

CDK8/19は、細胞がどの遺伝子を働かせ、どんなタンパク質を作るかを調整する仕組みに関わっています。

研究では、変形性関節症で起きる軟骨細胞の変化にCDK8/19が関わっている可能性が見つかりました。

そこで研究チームは、CDK8/19の働きを抑える化合物を使い、関節症に関わる細胞の反応がどう変わるのかを調べました。

軟骨を「壊れにくい状態」へ

実験室での細胞研究では、CDK8/19を阻害すると、軟骨細胞の状態にいくつかの変化が見られました。

具体的には、

  • 軟骨を作る方向の反応が強まる
  • 軟骨を壊す方向の反応が弱まる
  • 軟骨細胞が異常に成熟・肥大する反応が抑えられる
  • 炎症性刺激による細胞外マトリックスの分解が抑えられる

といった変化です。

変形性関節症では、軟骨細胞が本来とは違う状態へ変化し、軟骨が壊れやすくなることが問題のひとつです。

今回の結果は、CDK8/19を抑えることで、軟骨細胞の状態そのものを健康な方向へ近づけられる可能性を示しています。

ヒトの変形性関節症の軟骨でも確認

研究では、ヒトの変形性関節症の軟骨も調べています。

その結果、病変部ではCDK8や関連する分子が集まっていることが確認されました。

つまり、実験室で作った特殊な細胞だけに起きている現象ではなく、実際の変形性関節症の組織でもCDK8が関わっている可能性があります。

さらに、CDK8/19阻害は軟骨細胞だけではなく、炎症に関わるマクロファージや骨の代謝に関わる細胞にも作用しました。

変形性関節症が「軟骨だけの病気」ではなく、関節全体の病気であることを考えると、この点は重要です。

マウスでは歩き方まで改善

次に研究チームは、自然に変形性関節症を発症するSTR/Ortマウスを使って、実際の身体でどのような変化が起きるかを調べました。

CDK8/19阻害薬を投与したマウスでは、

  • 歩行の左右差が改善
  • トレッドミル運動を完了できる割合が上昇
  • 血液中のOA関連バイオマーカーが低下
  • 軟骨の構成が改善
  • 関節周辺の骨・軟骨の異常な石灰化変化が減少

といった結果が確認されています。

つまり、画像や細胞レベルの変化だけではなく、実際の動きにも改善が見られたということです。

「痛み止め」から「病気そのものを変える治療」へ

今回の研究が注目されている理由は、ここにあります。

現在、変形性関節症では痛みや炎症を管理する治療が中心です。

一方、今回研究されたCDK8/19阻害は、関節症の原因となる細胞の状態や、軟骨・骨・炎症をまとめて変える可能性があります。

研究チームは、このアプローチをdisease-modifying strategy(疾患修飾治療)の候補として位置づけています。

つまり、

「痛いから痛みを抑える」

だけではなく、

関節症そのものの進行に働きかける

という考え方です。

では、犬にも使えるのか?

犬と暮らしている人にとって一番気になるのはここだと思います。

現時点では、この薬を犬に投与して効果を確認した研究ではありません。

今回使われたのは、

  • 細胞モデル
  • ヒトのOA軟骨
  • マウスの変形性関節症モデル

です。

そのため、犬での安全性や効果、適切な投与量などは今後の研究が必要です。

一方で、RVCは犬の自然発症性OAを人と動物双方の研究に活かす「One Medicine」の考え方を以前から進めています。犬の変形性関節症は、人と同じように年齢とともに自然に発症し、関節の構造や症状にも共通点が多いためです。

研究者も、次の段階として前臨床研究から患者を対象としたproof-of-concept研究へ進めたいとしています。

シニア犬の「歩き方の変化」を見逃さない

新しい治療法の研究は進んでいますが、今できることもあります。

変形性関節症は急に始まるとは限りません。

たとえば、

  • 散歩のスピードが落ちた
  • 起き上がるのに時間がかかる
  • 階段を避ける
  • ジャンプしなくなった
  • 散歩の途中で止まることが増えた
  • 足を触られるのを嫌がる

といった小さな変化から始まることがあります。

「年を取ったから仕方ない」と思っていた変化が、実は痛みのサインであることもあります。

早い段階で獣医師に相談し、体重管理、運動量の調整、リハビリ、痛みの管理などを組み合わせることは、現在でも重要です。

新しい治療研究が進む一方で、毎日の歩き方を観察することも、犬の関節を守るための大切な第一歩です。

 

参考文献

Wells LM, Keen JAC, Sharma A, et al.
“Inhibition of cyclin-dependent kinase 8 modulates chondrocyte transition to hypertrophy and provides in vivo protection against spontaneous osteoarthritis.”
Bone Research, 2026.
https://www.nature.com/articles/s41413-026-00551-3

Royal Veterinary College / VetSurgeon
“Research identifies potential new approach to treating osteoarthritis”
2026.

More posts