犬は「顔と声が合っていない」と気づく?最新の脳波研究で見えてきたこと

犬は「顔と声が合っていない」と気づく?最新の脳波研究で見えてきたこと

犬と暮らしていると、こちらの表情や声に驚くほど敏感だと感じることがあります。

笑いながら呼ぶとすぐに近づいてきたり、少し強い声を出すとこちらの様子をうかがったり。

では、もし人間の顔は笑っているのに、声は怒っているとしたら、犬はその矛盾に気づくのでしょうか。

2026年8月22日、Scientific Reportsに、犬の脳波を使って「人間の表情と声の感情が一致しているかどうか」を調べた研究が発表されました。

研究を行ったのは、麻布大学、奈良先端科学技術大学院大学などの研究チームです。

結果として、飼い主の顔と声の感情が一致していないとき、犬の脳では一致しているときよりも大きな後期の脳波反応が確認されました。

飼い主の「笑顔」と「怒った顔」を使った実験

研究に参加したのは3頭の家庭犬です。

犬たちには、飼い主本人の短い映像を見せました。

映像には、

  • 笑顔

  • 怒った表情

の2種類があり、そこに飼い主の声を組み合わせています。

たとえば、

笑顔+楽しそうな声

なら、顔と声の感情は一致しています。

一方で、

笑顔+怒った声

のような組み合わせでは、顔と声が一致していません。

研究チームは、犬がこうした映像を見ている間、頭部に装着した非侵襲型のEEG(脳波計)で脳活動を測定しました。

不一致のとき、250〜500ミリ秒付近で反応が大きくなった

注目されたのは、声が始まってから約250〜500ミリ秒の時間帯です。

顔と声の感情が一致していない映像を見たとき、前頭部のF3電極で、より大きな後期陽性の脳波反応が確認されました。

つまり、犬の脳は、

「顔から受け取った情報」

「声から受け取った情報」

を別々に処理しているだけではなく、両方を組み合わせたときの“ズレ”にも反応している可能性があります。

研究チームは、この反応について、注意が高まったり、情報を統合する処理が増えたり、「予想と違う」と感じたときの処理負荷が増えたりしている可能性を挙げています。

人間のP300やN400と同じなのか?

脳波研究では、人間が「予想外の刺激」や「意味の合わない情報」に出会ったとき、P300やN400と呼ばれる特徴的な反応が現れることがあります。

今回の犬の反応も、時間帯としてはその領域と重なっています。

ただし研究チームは、犬の脳波で見られた反応をそのまま人間のP300やN400と呼ぶことには慎重です。

犬と人では脳の構造も違い、同じ時間帯に反応したからといって、同じ意味を持つとは限りません。

そのため論文では、今回確認された反応を「感情的不一致に関連した後期ERP変化」として扱っています。

犬は顔だけ、声だけを見ているわけではない

この研究が興味深いのは、犬が人間の感情を判断するときに、ひとつの情報だけを使っているわけではない可能性を示している点です。

犬は普段、

表情。

声の高さ。

話し方。

身体の動き。

匂い。

その場の状況。

など、さまざまな情報を同時に受け取っています。

過去の研究でも、犬が人間の顔の表情や声に含まれる感情情報を区別できることは報告されてきました。

今回の研究はそこから一歩進んで、異なる感覚から入ってきた感情情報が合っているかどうかを脳が処理している可能性を示しています。

例えば「笑顔で怒る」と、犬はどう受け取る?

人間同士でも、表情と声が一致しないことがあります。

笑顔なのに声は冷たい。

「大丈夫」と言っているのに、顔は怒っている。

言葉では褒めているけれど、声のトーンは強い。

犬とのコミュニケーションでも同じことは起こります。

今回の研究から直接、

「犬は人間の本音を見抜いている」

とまでは言えません。

ただ、犬の脳が顔と声の組み合わせの不一致に反応したという結果は、犬に伝えるときには、表情と声のトーンをある程度そろえることが分かりやすい可能性を考える材料になります。

トレーニングでも、言葉だけではなく、

表情。

声。

身体の動き。

を一貫させることは、犬にとって情報を理解しやすくすることにつながるかもしれません。

まだ3頭。ここから始まる研究

今回の研究で特に注意したいのは、参加した犬が3頭だったことです。

そのため、この結果をすべての犬に当てはめることはできません。

犬種。

年齢。

飼い主との関係。

性格。

経験。

などによって反応が違う可能性もあります。

今回の研究は、研究チーム自身もproof-of-concept(概念実証)として位置づけています。

それでも、犬に負担の少ない非侵襲EEGを使い、感情情報を処理する瞬間をミリ秒単位で捉えた点は大きな特徴です。

今後対象犬が増えれば、犬が人間の表情や声をどのような順番で組み合わせて理解しているのか、さらに詳しく分かってくる可能性があります。

犬は、私たちの「全体」を見ているのかもしれない

犬に何かを伝えるとき、私たちはつい言葉を中心に考えます。

「おいで」

「いい子」

「ダメ」

でも犬に届いているのは、言葉だけではありません。

顔。

声。

姿勢。

動き。

その場の雰囲気。

今回の研究を見ると、犬はそうした情報を別々に受け取るのではなく、組み合わせながら人間を見ている可能性があります。

犬と話すとき、

何を言ったかだけでなく、

どんな顔で、どんな声で伝えたか。

そこまで含めて犬とのコミュニケーションなのかもしれません。

Brott JOURNALでは、これからも世界で発表される犬の認知や行動に関する研究を紹介していきます。

参考文献

Koike H, Kubo T, Maruno Y, et al.
“Event-related potentials to emotional incongruence in dogs using non-invasive EEG.”
Scientific Reports, 2026.
https://www.nature.com/articles/s41598-026-66970-8

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