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誰かが大きなあくびをしているのを見ると、なぜか自分まであくびが出る。
人間ではおなじみの現象ですが、実は犬にも人間のあくびがうつることがあります。
飼い主が「あ〜」と大きくあくびをした数秒後、愛犬も大きなあくび。
「眠かっただけでは?」
と思いたくなりますが、この現象は実験でも何度も調べられています。
そして面白いのは、研究によっては知らない人より飼い主のあくびに反応しやすかったという結果まで出ていることです。
犬はなぜ、人間のあくびにつられるのでしょうか。
犬への「あくびの伝染」が大きく注目されたのは2008年です。
研究では29頭の犬に対し、人間が実際にあくびをする場面と、あくびではない口の動きを見せました。
すると、人間のあくびを見た条件では29頭中21頭があくび。
一方、比較用の口の動きを見せた条件では、同じような反応は起こりませんでした。
つまり、
「たまたまその時間に眠くなった」
だけでは説明しにくい結果です。
人間のあくびを見ること自体が、犬のあくびを引き起こした可能性が示されました。
さらに2013年、東京大学などの研究チームが25頭の犬を使って実験しました。
犬には、
それぞれがあくびする場面を見せます。
その結果、犬は単に人間のあくびにつられただけではなく、知らない人より飼い主のあくびを見たときに多くあくびをしました。
さらに犬の心拍数も測定しましたが、条件による大きな違いは見られませんでした。
研究チームは、単純なストレス反応だけでは説明しにくく、犬と人の社会的な結びつきが関係している可能性を指摘しました。
実は犬は、あくびを見るだけではなく、聞くだけでも反応する可能性があります。
別の研究では、人間があくびをしている音声を犬に聞かせました。
すると、犬は人間のあくびの音にも反応し、さらに知っている人の声の方が反応が強い傾向が確認されました。
犬は普段から、私たちが思っている以上に声の変化を聞いています。
だから「あくび」という何気ない音まで社会的な情報として拾っているのかもしれません。
ここが一番気になるところです。
人間では、あくびの伝染と共感能力の関係が長く研究されてきました。
そのため犬でも、
「大好きな飼い主だから、あくびまでうつるのでは?」
という説が出ました。
実際、飼い主の方が反応が強かった研究は、この考え方とよく合います。
ただ、その後の研究は少し複雑です。
2010年の研究では、飼い主への親しさによる明確な「あくびの伝染」を確認できませんでした。
さらに2020年、過去6つの犬の研究をまとめて再解析したところ、
犬にあくびが伝染する現象そのものには強い支持があった
一方で、
飼い主など親しい相手だから特に伝染しやすい、という明確な証拠は確認できませんでした。
つまり現在のところ、
犬にも人間のあくびはうつる。
でも、それが「共感」だからなのかはまだ分からない。
というのが一番近い整理です。
犬の「あくび」は、人間と少し意味が違うことがあります。
眠いときだけではなく、
緊張しているとき。
少し困っているとき。
ストレスを感じているとき。
にも、犬はあくびをすることがあります。
実際、シェルター犬を調べた研究では、人間のあくびを見た犬の反応と、覚醒・ストレスとの関連が指摘されています。
そのため、
「犬が一緒にあくびした=飼い主を愛している証拠」
とまでは言えません。
それでも、人間の非常に何気ない動作に犬が反応していること自体が面白いところです。
さらに面白い研究があります。
4〜14か月齢の子犬35頭を調べたところ、7か月齢を超えた犬であくびの伝染が確認されるようになったという結果が出ています。
生まれたときから自動的に反応するだけではなく、成長や社会経験によって変化する可能性があるわけです。
人間の行動を観察しながら生活する中で、犬の社会的な反応も育っていくのかもしれません。
特別な道具は必要ありません。
愛犬が落ち着いているときに、少し大きめの自然なあくびをしてみる。
犬はこちらを見るでしょうか。
そのあと、あくびをするでしょうか。
もちろん、反応しない犬もたくさんいます。
研究でもすべての犬が反応したわけではありません。
だから「うちの犬は共感性が低い」なんて考える必要はありません。
ただ、
人間が何気なくしているあくびを、犬が見て、聞いて、ときには自分もあくびをする。
何千年も一緒に暮らしてきた犬と人の関係を考えると、ちょっと面白い現象です。
次に愛犬と目が合ったら、一度あくびをしてみてもいいかもしれません。
Joly-Mascheroni RM, Senju A, Shepherd AJ.
“Dogs catch human yawns.”
Biology Letters, 2008.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2610100/
Romero T, Konno A, Hasegawa T.
“Familiarity bias and physiological responses in contagious yawning by dogs support link to empathy.”
PLOS ONE, 2013.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3737103/
Neilands P, Claessens S, Ren I, Hassall R, Bastos APM, Taylor AH.
“Contagious yawning is not a signal of empathy: no evidence of familiarity, gender or prosociality biases in dogs.”
Proceedings of the Royal Society B, 2020.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7031662/