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レプトスピラ症と聞くと、「雨上がりの水たまり」「ネズミの尿」「川や池」といった場所を思い浮かべる人が多いかもしれません。
たしかに、それらは代表的な感染経路です。レプトスピラ菌は感染した動物の尿から環境中へ排出され、水や土壌を汚染します。犬はその水を飲んだり、目・鼻・口、傷ついた皮膚などから菌が入ったりすることで感染します。
ところが、2021年にアメリカ・ロサンゼルス郡で起きた大規模な犬のレプトスピラ症アウトブレイクでは、少し違った感染の広がり方が注目されました。
ドッグデイケアやペットホテルなどの預かり施設など、犬が集まる場所です。
2026年に発表された研究では、この集団発生について臨床データと菌の遺伝情報を詳しく解析し、犬から犬への感染が重要な役割を果たした可能性を示しています。
ロサンゼルス郡では2021年7月ごろから、犬のレプトスピラ症が急増しました。
最終的に郡当局へ報告されたのは201症例、うち13頭が死亡。データが確認できた犬の約55%が入院を必要としています。
2026年の研究では、このうち詳細な臨床情報が得られた59頭を詳しく解析しました。
59頭中54頭、約92%は退院まで生存しましたが、一部の犬では退院後も高窒素血症、つまり腎機能障害を示す状態が残っていました。
レプトスピラ症は治療可能な感染症ですが、重症化すると腎臓や肝臓などに大きなダメージを与える可能性があります。CDCも、早期の抗菌薬治療によって回復しやすくなる一方、臓器障害が残る場合があるとしています。
今回のアウトブレイクで特に目立ったのが、犬が集まる施設との関連です。
ロサンゼルス郡の集計では、情報が得られた154頭のうち101頭、約66%がドッグデイケアまたは預かり施設を利用していました。
さらに2つの施設では、それぞれ30頭を超える大きな感染クラスターが確認されています。
ドッグパークの利用歴があった犬も約半数いましたが、その中にはデイケアや預かり施設も利用していた犬が多く含まれていました。
つまり今回のケースでは、「野外の汚れた水だけ」が問題だったわけではありません。
レプトスピラ症は、感染した動物の尿を介して広がります。
今回の集団発生で確認されたのは、Leptospira interrogans serovar Canicolaというタイプでした。
Canicolaでは犬自身が重要な宿主になり得ます。
そのため、感染した犬が尿中へ菌を排出し、同じ施設にいる別の犬がそれに接触することで、感染が広がった可能性があります。
研究では菌のゲノム解析も行われ、複数の感染源があった可能性が示されています。デイケアや預かり施設での犬同士の接触だけでなく、ネズミやその尿など、従来から知られている感染源も関係した可能性があります。
レプトスピラ症というと、自然の多い地域で暮らす犬の病気というイメージもあります。
しかしCDCは現在、都市・郊外・農村を問わず、ほぼすべての犬に感染リスクがあるとしています。
特に、
犬では、リスクが高くなる可能性があります。
今回のロサンゼルスの事例は、その中でも「犬同士が集まること」自体が感染機会になる場合があることを分かりやすく示しました。
レプトスピラ症の症状にはかなり幅があります。
CDCが挙げている犬の主な初期症状には、
などがあります。
その後、嘔吐や脱水が起きたり、腎不全による背中の痛みなどが現れたりする犬もいます。
ロサンゼルス郡も、元気消失、食欲不振、動きたがらない、飲水・排尿量の増加、嘔吐、血液検査での腎臓・肝臓障害などが見られた場合にはレプトスピラ症を疑う必要があるとしています。
単独では他の病気でもよく見られる症状なので、最近デイケアへ行った、旅行した、ドッグパークへ行った、水辺で遊んだといった情報も獣医師へ伝えることが診断の助けになります。
2026年の研究では、診断方法についても興味深い結果が出ています。
血液を使った抗体検査も行われましたが、今回の症例群では尿PCRが最も感度の高い検査でした。
レプトスピラ症では感染の時期によって検査結果が変わることがあるため、実際の診療ではPCRと抗体検査などを組み合わせて判断することがあります。
この点も、「レプトスピラ症はひとつの検査だけで簡単に判断できる病気ではない」ことを示しています。
今回詳しく解析された59頭のうち、ワクチン歴を確認できた47頭について、研究では全頭が完全なレプトスピラワクチン接種状態ではなかったと報告されています。
研究チームは、今回のようなアウトブレイクの予防には、より広いワクチン接種が重要だとしています。
CDCも犬用のレプトスピラワクチンについて、100%すべての感染を防ぐものではないものの、予防策として位置づけています。菌には複数のタイプがあるため、地域や生活スタイルに応じて獣医師と接種について相談することが重要です。
ロサンゼルス郡では今回のアウトブレイク後、レプトスピラワクチンを犬のコアワクチンとして考えるべきとしています。
レプトスピラ症は犬だけの病気ではありません。
人にも感染する人獣共通感染症です。
感染犬は尿中へ菌を排出するため、治療が完了していない犬の尿や、それで汚染されたものを扱う場合には注意が必要です。CDCは、感染動物の尿を処理するときには手袋などを使い、処理後に手を洗うよう案内しています。
なお、2021年のロサンゼルスの大規模アウトブレイクでは、感染犬に関連した人の発症例は確認されませんでした。
今回の研究から見ると、予防は「水たまりを避ける」だけではありません。
たとえば、
停滞した水をむやみに飲ませない。
雨上がりの水たまり、池、流れの少ない水などは感染源になる可能性があります。
ネズミ対策をする。
ネズミなどの野生動物もレプトスピラ菌を保有します。
犬が集まる施設を利用する場合はワクチンについて確認する。
デイケア、ホテル、トレーニング施設、ドッグパークなどを頻繁に利用する犬は、獣医師に生活スタイルを伝えて相談する価値があります。
そして、施設利用後などに、
「いつもより元気がない」
「水を飲む量が急に変わった」
「食べない」
「吐く」
といった変化が出た場合には、早めに動物病院へ相談する。
今回のアウトブレイクが教えてくれるのは、レプトスピラ症の感染場所は必ずしも自然の中だけではないということです。
都会で暮らし、普段きれいな場所しか歩かない犬でも、多くの犬と接触する生活をしていれば感染機会はあります。
犬の暮らし方が変われば、感染症のリスクも変わる。
レプトスピラ症は、そのことを改めて考えさせる感染症です。
Randolph MW, Nally JE, Yoshimoto SK, et al.
“Clinical and molecular characterization of an outbreak of leptospirosis in dogs from Los Angeles County, California, USA, 2021.”
Journal of Clinical Microbiology, 2026.
https://journals.asm.org/doi/10.1128/jcm.00240-26
Los Angeles County Department of Public Health
“Leptospirosis in Dogs in Los Angeles County”
Centers for Disease Control and Prevention
“Leptospirosis in Animals”