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ラブラドール・レトリーバーと暮らしていると、その食欲に驚くことがあります。食事を終えたばかりなのに、キッチンへ行けばすぐ後ろにいる。散歩中には落ちているものを見逃さず、おやつの袋の音には誰より早く反応する。
もちろん、食べることが好きな犬はどの犬種にもいます。ただ、ラブラドールの強い食欲には、しつけや性格だけでは説明できない、生まれつきの体の仕組みが関わっている可能性があります。
2024年に『Science Advances』で発表された研究では、ラブラドールとフラットコーテッド・レトリーバーに見られるPOMCという遺伝子の変異を調査しました。その結果、この変異を持つ犬には、食間に食べ物を強く求めやすいことと、安静時のエネルギー消費が少ないことの両方が示されました。
結論からいえば、食欲の強さは「わがまま」だけではありません。そして、遺伝的に太りやすい傾向があっても、肥満になることが決まっているわけでもありません。体の特徴を知ることで、むしろ管理の仕方が見えやすくなります。
研究には、POMC遺伝子の変異を持たない犬、1コピー持つ犬、2コピー持つ犬を含む36頭の成犬のラブラドールが参加しました。
犬たちは朝食を食べ、その3時間後に、穴の開いた透明な箱の中へソーセージを入れたものを見せられました。においはするし、目でも確認できますが、箱を開けて食べることはできません。
ここで研究者が調べたのは、犬がその箱にどれほど執着するかです。POMCの変異を持つ犬は、変異を持たない犬に比べて、休んだり室内を探索したりする時間が短く、ソーセージを取り出そうとする行動に長い時間を使いました。
つまり、同じように朝食を食べても、変異を持つ犬では食べ物への関心がより強く残っていました。研究者は、これは食べ物を「おいしいと感じる度合い」の違いというより、食間の空腹や「食べたい」という動機の強さを表していると考えています。
では、この犬たちは、どれだけ食べても満腹になれないのでしょうか。
研究チームは別の実験で、24頭のラブラドールにウェットフードを20分ごとに追加し、犬が食べるのをやめるまで与えました。すると、POMC変異の有無によって、食べた総量に明確な差は見られませんでした。
この結果から、変異を持つ犬が食事の直後にもまったく満腹を感じない、とまではいえません。違いが表れたのは、食事から時間がたったときです。食べ物を見つけた際の「欲しい」という反応が強く、食べる機会を探し続けやすい。飼い主から見ると、それが「いつもお腹をすかせている」ように映ります。
食事を増やせば解決するとは限らない理由も、ここにあります。求めるたびに追加していると、必要量を超えやすい一方で、食べ物への関心そのものはなくならない可能性があります。
研究のもう一つの重要な点は、入ってくるエネルギーだけでなく、使われるエネルギーも調べたことです。
研究者は19頭の成犬のフラットコーテッド・レトリーバーを対象に、呼吸に含まれる酸素と二酸化炭素を測定し、安静時のエネルギー消費量を調べました。この犬種にも、ラブラドールと同じPOMC変異が見られます。
変異を2コピー持つ犬は、変異を持たない犬と比べて、安静時のエネルギー消費が約25%少ないという結果でした。食べ物を強く求めやすい一方で、体が使うエネルギーは少ない。体重を維持するために必要な食事量が、見た目の印象より少なくなる場合があるということです。
ただし、この25%という数字はフラットコーテッド・レトリーバーの小規模な測定で得られたもので、すべてのラブラドールにそのまま当てはめることはできません。研究が示したのは、POMC変異が食欲とエネルギー消費の両方に関わる可能性です。
POMCは、食欲やエネルギー調節に関わる複数の物質のもとになる遺伝子です。今回調べられた変異では、POMCの一部が欠けることで、β-MSHとβ-エンドルフィンという物質がつくられなくなります。
研究では、変異を持つ犬で「食べたい」という動機が強まり、エネルギー消費が抑えられることが確認されました。体は実際には十分な栄養を持っていても、食べ物を探し、エネルギーを節約する方向へ傾きやすくなると考えられます。
この変異は、過去の研究ではラブラドールのおよそ4頭に1頭、フラットコーテッド・レトリーバーではおよそ3頭に2頭に見つかっています。ただし、変異がないラブラドールでも太ることはあり、変異を持っていても適正な体型を維持している犬はいます。遺伝子は傾向をつくりますが、体重を一つだけで決めるものではありません。
食欲の強い犬と暮らすと、欲しがっているのに与えないことがかわいそうに感じられるかもしれません。しかし、食べ物を求める強さと、体に必要なカロリーは同じではありません。
まず役立つのは、食事を目分量にせず、毎回量ることです。家族全員がおやつを渡す家庭では、1日分を最初に取り分けておくと、知らないうちに重なるのを防げます。トレーニングのおやつも食事の一部として考え、普段のフードから取り分ける方法があります。
また、少ない量をただ減らされたと感じさせない工夫もできます。早食い防止の食器、知育トイ、フードを使った探索遊びなどを利用すれば、同じ量でも食べ終わるまでの時間を延ばせます。ラブラドールの高い食べ物への意欲は、トレーニングの集中力にも変えられます。
体重だけでなく、肋骨に触れられるか、上から見たときに腰のくびれがあるか、横から見たときに腹部が持ち上がっているかも定期的に確認します。食事を調整しても体重が増える、急に食欲が変わった、運動を嫌がるなどの変化があれば、病気や痛みが隠れていないか獣医師に相談することが大切です。
今回の研究が伝えているのは、「ラブラドールは太っても仕方がない」ということではありません。食べ物を強く求める犬の中には、飼い主が想像する以上に強い空腹の動機と、少ないエネルギー消費を抱えている犬がいる、ということです。
欲しがるたびに与えることだけが愛情ではありません。体型を守りながら、食べる楽しみを長く味わえる方法をつくることも愛情です。
食いしん坊な目でこちらを見つめるラブラドール。その視線の背景にある体の仕組みを知れば、「我慢させる」という見方から、「この犬に合った環境を整える」という考え方へ変わります。遺伝子は変えられなくても、毎日の食べ方と過ごし方は変えられます。
Dittmann MT, et al. (2024). Low resting metabolic rate and increased hunger due to β-MSH and β-endorphin deletion in a canine model. Science Advances, 10(10), eadj3823. https://doi.org/10.1126/sciadv.adj3823
Raffan E, et al. (2016). A deletion in the canine POMC gene is associated with weight and appetite in obesity-prone Labrador retriever dogs. Cell Metabolism, 23(5), 893–900. https://doi.org/10.1016/j.cmet.2016.04.012