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犬の「無駄吠え」に悩む飼い主は少なくありません。
インターホンが鳴ると吠える。
廊下の音に反応する。
知らない人が来ると吠える。
留守番中にずっと吠える。
外で犬を見ると興奮して吠える。
人間から見ると「そんなに吠えなくても」と思うことがあります。
でも犬からすると、その吠えにはたいてい何か理由があります。
2019年に日本の家庭犬2,050頭を対象に行われた調査では、25種類の行動について飼い主がどの程度困っているかを調べました。その結果、86.0%の犬で少なくとも1つ、飼い主が「困る」と感じる行動が報告されています。特に多かったのが、家の中の物音への吠え41.1%、知らない来客への吠え38.4%でした。
つまり「吠える」という行動は、かなり一般的です。
大切なのは、吠えること自体を問題にするのではなく、何に反応して、なぜ吠えているのかを見ることです。
今回の日本の研究では、「問題行動」は犬にとって異常な行動という意味ではありません。
同じ行動でも、飼い主が困っていれば「問題行動」として扱われます。つまり「無駄吠え」という言葉自体が、人間側から見た評価です。
犬にとって吠えることはコミュニケーションのひとつです。
たとえば、
警戒
「誰か来た」「知らない音がした」
興奮
「犬がいる」「遊びたい」「うれしい」
要求
「外に出たい」「遊んでほしい」「ごはんがほしい」
不安・恐怖
「ひとりにされた」「怖い音がする」
といった意味が考えられます。
表面上は同じ「ワンワン」でも、理由はかなり違います。
2,050頭調査で最も多かったのは、家の中で聞こえる物音への吠えでした。
843頭、全体の41.1%について、飼い主がこの行動に困っていると回答しています。
次に多かったのが、知らない来客への吠えで787頭、38.4%でした。
日本の住宅では、
廊下を歩く音。
エレベーター。
隣のドア。
宅配便。
インターホン。
など、人間には日常音でも、犬には「自分の生活圏に誰かが近づいている」ように聞こえることがあります。
特に玄関の向こうが見えない環境では、音だけを頼りに警戒する犬もいます。
そのため、来客吠えや物音吠えは、「やめさせる」前にどの刺激でスイッチが入るかを見ることが重要です。
オーストラリア・ブリスベンで行われた別の研究では、いわゆるnuisance barking(迷惑吠え)に関連する要因が調べられました。
多変量解析では、
という関連が確認されています。
この数字を「若い犬は11倍吠える」と読むわけではありません。
あくまで、その研究集団の中で「迷惑吠え」のある犬に見られた関連です。
ただ、若い犬ほど刺激への反応が大きかったり、興奮を自分で落ち着かせる経験がまだ少なかったりすることは、飼い主が吠えを理解するヒントになります。
2025年に発表された若齢犬の縦断研究でも、6〜18か月齢で報告された望ましくない行動の中で、吠えは一貫して上位に入り、12か月齢では6か月齢より有意に多く報告されました。
つまり、成長途中の犬では「吠える時期」がある程度強く出ることもあります。
多頭飼いとの関連も興味深いところです。
1頭が玄関の音に気づいて吠える。
それを聞いたもう1頭も吠える。
さらに3頭目も参加する。
犬同士で反応が伝わることがあります。
もちろん、多頭飼いだから必ず吠えるわけではありません。
でも、犬同士がお互いの警戒や興奮を増幅させることはあります。
こういう家庭では、「全員まとめて静かにさせる」より、最初に反応する犬はどの犬か、何がきっかけかを見る方が対策しやすいことがあります。
無駄吠え対策でありがちなのが、全部の吠えをひとまとめにしてしまうことです。
たとえば、
警戒や興奮が中心。
外部刺激への反応や警戒。
不安や分離関連行動の可能性。
恐怖、興奮、フラストレーションなど。
吠えることで飼い主が反応してくれる学習。
原因が違えば、対策も変わります。
「吠えたら叱る」だけでは、犬が何に困っているのかは解決しません。
むしろ不安や警戒から吠えている犬では、強く叱ることで刺激への印象がさらに悪くなることもあります。
吠えを減らしたいなら、最初におすすめしたいのは記録することです。
何時に吠えたか。
何が起きた直後か。
誰がいたか。
何秒・何分続いたか。
飼い主が何をすると止まったか。
数日だけでも記録すると、意外とパターンが見えてきます。
たとえば、
「インターホンではなく、宅配トラックの音で先に反応している」
「夕方だけ外の犬に反応する」
「留守番開始直後の10分だけ吠える」
といったことが分かります。
原因が見えると、環境を変えたり、トレーニングしたりしやすくなります。
玄関の音や外の物音への吠えでは、犬が完全に興奮してから止めるより、反応する前に別の行動へ誘導する方がやりやすいことがあります。
たとえば、
インターホン → ハウスへ行く → おやつ。
廊下の音 → 飼い主を見る → ごほうび。
というように、音に対して別の行動を覚えてもらいます。
目標は「音がしても何も感じない犬」にすることではありません。
音がしたとき、吠える以外の選択肢を作ることです。
犬が吠えた。
飼い主が「静かに!」と話しかけた。
犬からすると、
「吠えたら飼い主が反応した」
という学習になることがあります。
散歩へ連れていく。
おやつを渡す。
抱っこする。
こうした反応も、タイミングによっては要求吠えを強化します。
要求吠えでは、吠えている瞬間だけを見るのではなく、静かにしているときに何をしているかが大切です。
静かに待っている。
伏せている。
こちらを見ている。
そういう状態を褒める回数を増やします。
留守番中に長時間吠え続ける場合は、単純な「癖」と決めつけない方がいいです。
飼い主がいないことで強い不安を感じている場合があります。
特に、
吠え続ける。
遠吠えする。
ドアや窓を壊そうとする。
よだれが多い。
排泄してしまう。
といった行動が同時に見られる場合は、分離関連問題の可能性があります。
こうしたケースでは、単純なしつけより、獣医師や行動診療の専門家へ相談した方がいい場合があります。
犬は吠える動物です。
宅配便が来たら1回吠える。
外で大きな音がしたら反応する。
遊んでいて声が出る。
それ自体までゼロにする必要はありません。
考えたいのは、
なぜ吠えているのか。
どのくらい続くのか。
犬自身が困っていないか。
人や近所との生活に支障が出ていないか。
ということです。
「無駄吠え」という言葉を少し横に置いてみると、犬の行動が違って見えてきます。
その吠えは、
「誰か来たよ」
かもしれない。
「怖いよ」
かもしれない。
「こっち見て」
かもしれない。
理由が分かれば、人間側も対応を変えられます。
吠えを止めることから始めるのではなく、犬が何を伝えようとしているかを見る。
それが、いちばん遠回りに見えて、実は一番近い無駄吠え対策なのかもしれません。
Yamada R, Kuze-Arata S, Kiyokawa Y, Takeuchi Y.
“Prevalence of 25 canine behavioral problems and relevant factors of each behavior in Japan.”
Journal of Veterinary Medical Science, 2019.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6715928/
Cross NJ, Rosenthal K, Phillips CJC.
“Risk factors for nuisance barking in dogs.”
Australian Veterinary Journal, 2009.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19796161/
Kinsman RH, et al.
“Owner-Perceived Undesirable Behaviours in Young Dogs and Changes with Age.”
Animals, 2025.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12024356/