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ボールを見つけた瞬間、目の色が変わる。
何度投げても「もう一回」と持ってくる。隠しても、おもちゃを置いた場所から離れない。散歩へ行くより、ごはんを食べるより、ボールで遊ぶことを優先する。
そんなボール大好きなワンちゃん、周りにいませんか?
犬がおもちゃを好きなのは自然なことです。遊びは運動になり、飼い主とのコミュニケーションにもなります。トレーニングでは、おもちゃを効果的なごほうびとして使うこともできます。
ただし、一部の犬では、おもちゃへの意欲が非常に強くなり、遊びを自分で終えられない、興奮からなかなか戻れないといった状態まで広がることがあります。
2026年7月、犬のおもちゃに対する強い意欲について、1,692頭を対象に調べた研究が『Royal Society Open Science』に掲載されました。研究者が注目したのは、「よく遊ぶ犬」ではなく、おもちゃへの意欲が生活のほかの部分を押しのけるほど強くなった犬です。
研究では、英語とドイツ語で実施したオンラインアンケートを通じて、33か国の犬1,692頭を分析しました。犬の平均年齢は5.23歳で、家庭犬だけでなく、ドッグスポーツや仕事に参加する犬も含まれています。
研究チームは、15項目からなる「AB-Q」という質問票を使用しました。質問には、次のような行動が含まれています。
点数が高いほど、おもちゃへの強い集中、切り替えの難しさ、遊びを求め続ける傾向が強いことを示します。研究上は、人の行動依存と共通する特徴があることから「addictive-like」、つまり依存に似た行動特性として扱われています。
犬種グループ別に見ると、平均スコアが最も高かったのは、ジャーマンシェパードやベルジアンシェパードなどを含むシェパード系でした。
次いでテリア系、レトリーバー系、ボーダーコリーなどを含む牧羊犬系の順でした。一方、セントハウンド系やスピッツ・原始犬系では、平均スコアが比較的低くなっています。
平均スコアは、シェパード系が46.71、テリア系が39.94、レトリーバー系が39.67、牧羊犬系が38.85でした。犬種グループによる違いは、もともとの仕事や繁殖の歴史と関係している可能性があります。
たとえば、仕事や競技で活躍する犬には、対象へ集中し続けること、簡単に諦めないこと、ごほうびに強く反応することが求められます。
こうした性質は、作業中には大きな長所です。しかし、その強さが極端になり、遊びが終わっても興奮を切り替えられなくなると、家庭生活では扱いにくさにつながる場合があります。
飼育目的による違いも確認されました。
家庭犬の平均スコアが32.51だったのに対し、スポーツに参加する犬では40.44、仕事をする犬では40.87でした。犬種グループなどの影響を統計的に調整した後も、スポーツ犬と作業犬では家庭犬より高いスコアが確認されています。
ボールや引っ張りっこ用のおもちゃは、犬を素早く動機づけられるごほうびです。食べ物よりおもちゃに強く反応する犬もいるため、捜索、服従訓練、ドッグスポーツなどでよく利用されます。
集中力や粘り強さが求められる犬ほど、おもちゃへの意欲も強くなりやすい。その一方で、高い意欲を持ちながら、必要なときに止まり、休めることも重要になります。
今回の研究で、おもちゃへの高いスコアと特に関連していたのは、単に遊ぶ時間の長さではありませんでした。
スコアが高い犬は、飼い主から次のように評価される傾向がありました。
つまり、問題の境目は「ボールが大好きか」だけではなく、遊びが終わった後に気持ちを切り替えられるか、十分に休めているかにありそうです。
おもちゃを見せると喜んで遊び、終了の合図で落ち着ける。遊び以外の散歩や匂い嗅ぎ、ごはん、人との交流も楽しめる。
このような犬にとって、強い遊び意欲はトレーニングや運動に生かせる長所です。
一方、おもちゃを片づけても探し続ける、遊べないと強く興奮する、疲れても止まらない、ほかの活動や休息への切り替えが難しい状態では、遊び方を見直す価値があります。
研究では、成犬時の行動だけでなく、生後2〜6か月ごろの様子についても飼い主に振り返ってもらいました。
成犬時におもちゃへのスコアが高かった犬は、子犬のころから「やる気を引き出しやすい」「意欲が強すぎる」「興奮後に落ち着くまで時間がかかる」「トレーニング中に集中を維持しにくい」と評価される傾向がありました。
その犬の持つ気質や、犬種として受け継いできた性質が関係している可能性があります。
実際、おもちゃへの意欲が非常に強い犬の多くについて、飼い主は「積極的におもちゃ好きへ育てたわけではない」と回答していました。飼い主が強くあおった結果だけではなく、もともとの個体差も大きいと考えられます。
おもちゃ遊びを減らすこと自体が目的ではありません。
今回の研究から日常へ落とし込むなら、見るべきなのは次の2点です。
遊びを楽しめているか。
そして、遊びが終わった後に落ち着けているか。
ボールを投げ続けて犬が完全に疲れ切るまで遊ぶのではなく、まだ余裕がある段階で終える。毎回同じ言葉で終了を伝え、おもちゃを片づけた後は、匂い嗅ぎや休憩など静かな活動へ移る。
また、痛みがある、足をかばっている、呼吸が落ち着かないといった状態でも遊びを続けようとする犬では、犬の「まだやりたい」だけを基準にせず、人が身体の状態を見て止める必要があります。
おもちゃがなくなると長時間落ち着けない、睡眠や食事に影響している、けがをしても遊びを止められないなど、生活や健康への影響が見られる場合は、獣医師や犬の行動を専門とする人へ相談する選択肢もあります。
おもちゃへの意欲が強い犬は、集中しやすく、やる気を引き出しやすい犬でもあります。
トレーニングが進みやすい。スポーツを楽しめる。飼い主と夢中になって遊べる。
それは、その犬が持つ魅力のひとつです。
大切なのは、「ボールが好きすぎるから遊ばせない」ことではありません。
夢中になって遊べることと、自分を落ち着かせて休めること。その両方を育てることです。
遊ぶ力だけでなく、終わる力も見る。
今回の研究は、犬との遊びを少し違う角度から考えるきっかけになります。
Alja Mazzini, Stefanie Riemer
“The high end of toy motivation in dogs: developmental predictors and relevance for sport and working dogs.”
Royal Society Open Science, 2026.
Alja Mazzini, Katja Senn, Federico Monteleone, Stefanie Riemer
“Addictive-like behavioural traits in pet dogs with extreme motivation for toy play.”
Scientific Reports, 2025.